日本にある全10種類の泉質の特徴や比較、適応症や成分基準による決め方、代表的な温泉地を九州温泉道の泉人が解説! 湯あたりのしやすさや出る際に温泉を洗い流すべきかどうかも紹介。
温泉旅行に行かれた際、どこの温泉にも「硫黄泉」とか「ナトリウムー塩化物泉」とか書かれた「泉質名」が紹介されているのを目にしたことがあるかと思います。
一方で、泉質がどのように決まっていて、どんな特徴があり、何に効きそうかといったことは意外と知られていないのではないでしょうか?
この記事では、そんな泉質の決め方や特徴を知って、温泉をもっと楽しむコツをシンプルに解説します!

「泉質」というのは、ざっくり言うとその温泉の成分特徴を示す分類キーワードです。
もう少し正確には、温泉の中でも特定の条件を満たした「療養泉」に付けられるもので、成分量を基に60以上の組み合わせで表記されます。
とはいえ、数十ある泉質名の組み合わせでも、見るべきキーワードは10個に絞られます。
これら10泉質の見方や決まり方、特徴や適応症を知ると温泉がもっと楽しくなるはずです!
※この記事では、療養泉のことを分かりやすく温泉と呼びます。また、シンプルさを優先して、一部の複雑なルールは省略して説明しています。正式なルールは[2]をご参照ください。
「泉質名」は、施設のウェブサイトに掲載されているケースがあるほか、ロビーや脱衣所などで必ず以下のような「温泉分析書」が掲示されており、そこにも記載されています。

画像の例のほかに「含硫黄-ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉」のように長々したキーワードが記載されています。これを読み解くのがこの記事のゴールです!
読み方は実は単純で、基本的には手前から”漢字”のキーワードを拾い上げればOK! この漢字キーワードが日本に存在する10の泉質に対応しています。複数のキーワード全ての特徴を持った温泉という意味なので、泉質名が長いほど、効きそうな気がしてきますね(笑)
泉質以外にも読みどころ満載の「温泉分析書」の読み方は以下の記事をご覧ください!
先頭の漢字キーワードを利用することが多く、先の例では「硫黄泉」と表記します。一方で、先の例は硫黄泉+塩化物泉+硫酸塩泉の泉質条件を満たしていますが、短縮した記載では硫黄泉以外の特徴が読み取れないので、ぜひ正式名称も探してみるのがオススメです。
先ほど「泉質名は成分の基準で決まる」とご紹介しましたが、具体的にはどのようなルールなのでしょうか?
細かくは色々あるのですが、ここでは温泉を楽しむ観点から、ざっくりどのように決まっているかをシンプルに解説します。
泉質を決めるルールはざっくり以下の3種類で、これらの組み合わせで泉質名が決まります!
| タイプ | ルールと対象の泉質 |
|---|---|
| ①特徴的な成分のルール | 硫黄や炭酸などの特徴的な成分が一定以上含まれるタイプ (=特徴強め!) 対象:硫黄泉・酸性泉・二酸化炭素泉・含鉄泉・放射能泉・含ヨウ素泉 |
| ②成分総量のルール | 温泉に溶けている総成分量※が温泉1kg当たり1000mg以上含まれるタイプ (=成分濃いめ!) 対象:塩化物泉・炭酸水素塩泉・硫酸塩泉 ※この3種類の泉質を「塩類泉」と呼びます。 |
| ③温度のルール | 成分総量はタイプ②の条件(1000mg/kg)を満たさないものの、温度が25℃以上あるタイプ (=優しいお湯!) 対象:単純温泉 |
※この記事で、溶けている成分総量は、溶存物質 (ガス性のものを除く)を指します。

以下で、全10泉質それぞれの特徴と泉質別の適応症をご紹介します。これから入る温泉の泉質と見比べて特徴をつかんでみてください!
筋肉若しくは関節の慢性的な痛み又はこわばり(関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期)、運動麻痺における筋肉のこわばり、冷え性、末梢循環障害、胃腸機能の低下(胃がもたれる、腸にガスがたまるなど)、軽症高血圧、耐糖能異常(糖尿病)、軽い高コレステロール血症、軽い喘息又は肺気腫、痔の痛み、自律神経不安定症、ストレスによる諸症状(睡眠障害、うつ状態など)、病後回復期、疲労回復、健康増進
なお、以下の泉質別適応症[1]の記載で、浴は浴用の適応症、飲は飲用の適応症を表します。飲用許可の表示があるところでは、飲泉も是非!
国内では最もポピュラーな泉質です。
”単純”というのは成分総量が少なめという意味で、お湯にクセがないのが特徴です。そのため、老若男女・肌が弱い方を含めどなたにも優しいお湯ともいえます。
なお、アルカリ成分が強い場合でpHが8.5を超えるとアルカリ性単純温泉と泉質名にも表記されるようになります。この場合は、肌の角質を落としてツルツルにしてくれる”美人の湯”と呼ばれる泉質の一つにも数えられます!
国内では単純温泉と並びポピュラーな泉質の一つです。温泉成分が保湿・保温効果に優れるといわれる泉質です。
身近な成分例として「食塩」は塩化ナトリウムですが、これが主成分だと「ナトリウムー塩化物泉」との泉質名になります。こちらは食塩から連想できるように、海沿いの温泉に多い泉質です。

温泉成分が毛穴の汚れを落としてくれる”美人の湯”と呼ばれる代表的な泉質の一つです。
身近な成分例として「重曹」が主成分だと「ナトリウムー炭酸水素塩泉」または古い表記では「重曹泉」との泉質名になります。
高校化学で言うと、そのイオンのmol(モル)数にそのイオン価数をかけた値がvalになります(mvalはその1/1000)。ざっくりとは「そのイオンがもつ総電荷数」といったイメージです。この電荷数の数が最も多いものと、陰イオン中の割合で20%を超えるものが泉質名に現れる成分名となるわけです。
炭酸水素塩泉と並び、こちらも美人の湯といわれる泉質です。
”硫酸イオン”とのキーワードから酸性が強いと思われる方も多いですが、必ずしも酸性が強いわけではありません。

例に挙げた温泉地をはじめ、山沿いで落ち着いた歴史ある温泉地や湯治場も多く、根強い人気を裏付けています。
硫黄の香りがTHE・温泉! と思わせる泉質です。硫黄成分の抗菌力をかわれてかアトピー性皮膚炎なども適応症に記載されています。
硫黄泉の中には”色”が特徴的な温泉もあり、新潟の月岡温泉はエメラルドグリーンをした透明のお湯が特徴的。そのほか、”硫化水素型”と呼ばれる火山地域に多いパターンでは白い濁り湯も代表的です。

なお、貴金属が硫黄成分と化合して黒変することがあるので、お風呂場の蛇口などが黒変していれば、アクセサリーを外して入るのがおすすめです。
温泉らしい香りが魅力ですが、他の泉質比べて刺激が強めなので、気になる方は出る際に洗い流してから出るのも一案。また、服は洗濯してもしばらく硫黄の香りが残ります(笑)。
火山地帯で硫黄泉とセットになることが多い泉質で、理系の方には「水素イオンが1mg/kg以上(ざっくりpH<3)」と表記するとイメージがつきやすいかもしれません。
酸性の抗菌力をかわれてかアトピー性皮膚炎も適応症に記載されているのが特徴的です。

ただし、傷があったり肌が弱いと沁みることがあるので要注意です。また、硫黄泉と同様に刺激とが強いので、出る際に洗い流したり、アクセサリーの変色には要注意。
別名”炭酸泉”で、スーパー銭湯には人工のものが時々ありますが、天然の炭酸泉は国内の温泉地のうち1%を切る[2]レア泉質です。その中でも規模の大きさから特に有名なのは、大分県の長湯温泉です。
炭酸ガスが抜けるため、ぬるめの泉温でゆっくり入る温泉が多めです。ぜひ一度は現地で味わってみてください!
鉄成分が豊富に含まれる泉質で、炭酸水素塩泉や塩化物泉とのセットでは赤褐色の濁り湯になるケースが多く、有馬温泉の”金泉”が有名です。
他にも火山の周りの温泉では酸性泉や硫黄泉、硫酸塩泉とのセットで見られることもあり、こちらでは白~緑系統の薄めの濁り湯になることが多いです。
なお、飲用可能な温泉では、その成分から鉄欠乏性貧血が適応症に記載されます。
適応症に唯一「痛風」が記載される泉質で、国内では二酸化炭素泉と並んで数が少ない泉質です。
なお、ラドンは気体のため、二酸化炭素泉(炭酸泉)と同様にぬるめの温度でゆったり入りたい泉質。
うがい薬や消毒液で有名な「ヨウ素」を多く含む泉質です。実は日本は世界有数のヨウ素の産出国で、平野部に多い泉質です。
他の成分と相まってユニークな特徴をもつ温泉も多くあります。

例に挙げた温泉は、日本では珍しい石油掘削の副産物として湧き出した温泉で、お湯も石油の匂いがしています。ユニークな香りを現地でぜひ!
いかがでしたでしょうか。この記事が皆さんの温泉巡りの一助になれば幸いです!